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ネット時代の宿と客の関係は 群馬県旅館組合・歴代青年部長が語る(2)

福田 お客さんのライフスタイルがかなり変わってきています。こうしたお客さんに従来のホスピタリティが通用するのかどうか。どう思いますか。

仮想に対する臨機応変

持谷 今は、ほとんどの高校で先生と生徒が友だちのように接しています。そういう状況で育った子が19歳、20歳で会社に入ってきたときに、やはり違和感を感じます。

京都の舞妓さんは「仕込み」といって住み込みの修行があります。置屋の女将をお母さんとして過ごします。そうした世界がないと、お客さんを一期一会でお迎えするといったことは身につかないと思います。ただ、そこまで水際立ったレベルを求めるのか、ある程度、ネットで旅館を調べてみて、それが自分にマッチするかマッチしないかだけの評価もあります。必ずしも手厚いもてなしや豪華な施設でなくてもいい世界です。

高い評価を受けている小規模なお宿さんもたくさんあります。例えば、正当派の日本の伝統を見せつけながら、フレンドリーな応対でお客さんをもてなすようなやり方など、そのあたりは、お宿さんの戦略もあるんだと思います。

鈴木 うちの旅館では女将が昔ながらのベタベタの接客を続けています。それでアンケートに書かれるのは女将さんが最後まで見送ってくれて嬉しかったとか、そうした声です。やはり旅館は接客業だと思います。今までは、料理についてもおいしければいいだろうと思っていたけど、そうじゃないですね。食べている間のちょっとした会話なんかをお客さんは求めてきていると感じます。

大塚 今、ホテルの専門学校で講師をしていで、ホスピタリティとサービスの違いについて話すことがあります。サービスはマニュアルが整備されるほど高品質化し、それは高単価にもつながります。サービスマニュアルにはやってはいけないことが書いてありますが、ホスピタリティは違います。現場現場でその人が最上の方法を考えていくことがホスピタリティです。サービスだけではだめで、その上にホスピタリティが乗って初めてお客さんに喜んでもらえるんだと話します。

ホスピタリティには、マニュアルがなじみません。私は、実経験や臨機応変の蓄積ができている旅館こそが強いんだと思います。それがあれば、お客さんがどう変わっても、ウェブ上の仮想空間を体験した後に大きな期待を持って旅館を訪れるお客さんにも、対応できると思っています。

千木良 難しいのは施設にはマニュアルやルールがありますが、それをお客さんとの間で破ったときに、お客さんは喜ぶということです。ただ、まずいのは、お客さんが、それをウェブ上に書くことです。「無料で客室をアップグレードしてくれた」とか「時間外だったのにお風呂に入れてくれた」とか、こちら側がルールを破ったことが評価されるんです。それがウェブで表に出たときに、それを見たお客さんが、そこに期待して泊まりに来ます。そうなると、今度はこちら側がルールを広げなくてはお客さんからお叱りをいただくことになってしまします。ホスピタリティで収まればいいけど、広げ過ぎると、こちらが難しい場面に踏み込んでしまう可能性があります。お客さんと相対でできるならいいんです。それがネット上に広がってしまうところが難しい。

福田 ネット上に露出されないと選ばれないし、そこに書かれ過ぎると負担が増える。実態を表している話ですね。

旅館側からも伝えたい

田村 泊まる側だけが書けることが、旅館にとっての厳しさにつながっているんではないでしょうか。そもそも、サービスは平等なもの、ホスピタリティはえこひいきなものです。

例えば、私たちがこのお客さんのためになにかをしてあげたことが喜ばれたのはサービス外の話です。逆にお客さんが地元のお土産を持って泊まりにきてくれるのもサービス外の話ですが、私たちはそのことをウェブに書きませんよね。チップを1万円ももらって、とても嬉しかったとは(笑)。今、お客さんの声として書かれていることは、そういう種類のものです。

今、じゃらんネットに、もっと宿側のコメントが書けるスペースがほしいとお願いしています。そこでお客さんに伝えたいことを書かせてもらいたい。

例えば、キャスター付のバッグを引いてくるお客さんがいます。それを畳の上でも引いてしまう。それはおかしいと思うけど、でも、時代が変わって、その人がそうしたことを生活の中で当たり前にしているとするなら、どちらが変なのか分からなくなる部分があります。どこまでが共通認識なのか、かつての共通認識はまだ成立しているのか。そうしたことを1軒の旅館から発信するのではなく、なかなか言えないことを旅館組合を通して伝えることも必要ではないでしょうか。

千木良 その旅館のやり方、ルールでやるべきだと思います。それがバリエーションであり、お客さんがそれらから選べばいい。私たちが考えるとお客さんにひっぱられて、なんでもOKとなってしまいがちです。汚れた靴を拭いて上がる、キャスター付バッグは畳の上で引かない、こうしたルールを続けることが、いいことだと思います。こうしたことも、私たちがお客さんにできるサービスの1つだと思います。

(トラベルニュースat 09年6月25日号)

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