誰もが楽しめる自然体験型観光を創る、東京都が事業者向けワークショップを開催
東京都は12月19日、年齢や障害の有無にかかわらず誰もが参加できる自然体験型観光の充実を目指し、「誰もが楽しめる自然体験型観光推進のためのワークショップ(第4回)」を東京・市ヶ谷で開催した。旅行業者や体験型観光提供事業者などを対象に、これまでに実施したモニターツアーの成果を共有するとともに、専門家による講演を通じて知見を深めながら、東京の自然を誰もが体感できるオリジナルツアーの造成や販売の在り方について意見交換を行った。

ワークショップの様子
同事業は、東京都が推進するアクセシブルツーリズムの一環として、2025年度は、八丈島でのバリアフリービーチとスノーケリング、秋川渓谷でのSUP(サップ)と川釣りとチェアリング、大島でのバリアフリートレッキングなど、東京の自然を舞台にした多様な体験の機会を提供してきた。
ワークショップには、旅行会社、都内で自然体験型学習を提供する事業者など、総勢21人が参加した。以下、ワークショップの様子を紹介する。

講義の様子
モニターツアーは「準備」が成否を分ける
第1部の講義では、まずプランニングネットワーク ユニバーサルツーリズムアドバイザーの渕山知弘氏が登壇。同年度に実施した自然体験型アクセシブル観光のモニターツアーを振り返り、「当日の運営以上に、そこに至るまでの準備が重要になる」と強調した。

渕山氏
同事業では、7月に八丈島でバリアフリービーチ、9月に多摩地域の秋川で川遊び、10月に大島でバリアフリートレッキングを実施している。渕山氏は、八丈島と秋川を例に挙げながら、企画段階での下見と検証のプロセスを解説した。
八丈島では、伊豆諸島のバリアフリーモデルコース策定で現地を訪れていた経験から、東海汽船の客船ターミナル付近のビーチに着目。「一見すると階段ばかりだが、スロープの有無や傾斜、波打ち際までの距離を確認すれば、支援次第で実施できる可能性がある」と判断し、改めて下見を行ったという。ビーチマットをどの程度敷設できるか、潮位によって砂浜の距離がどう変わるか、トイレや休憩場所、更衣スペースをどこで確保できるかといった点を一つずつ確認し、「致命的なバリアかどうか」を見極めたと説明した。
一方、川のモニターツアーでは、当初、多摩川上流域でSUPの実施可能性を検証したが、アクセスが急な階段であることや、流れが速く水深もあることから、安全面の課題が大きいと判断。「言葉だけでは難しさが伝わらないため、下見の様子を動画で記録し、なぜ実施が難しいのかを可視化した」と振り返った。
その上で候補地を秋川へ移し、浅瀬で川遊びや釣りが可能な環境を生かしながら、SUPボードに車いすやキャンプ用ローチェアなどを装着して車いす利用者がSUPを楽しむことができるか、そのやり方を現地で検証。アクティビティ事業者や関係者と意見を交わしながら試行錯誤を重ね、実施につなげたという。
渕山氏は「できない理由を並べるのではなく、どうすればできるかを検証することが、自然体験型観光の商品造成につながる」と述べ、旅行会社、体験事業者、地域が連携して準備を重ねる重要性を強調した。
「行けない」を「行ける」に変える価値、課題解決型観光としての可能性
続いて講演したユニバーサルツーリズム総合研究所 理事長・代表研究員の長橋正巳氏は、アクセシブルツーリズムを「行けない、体験できないを、行ける・体験できるに変える価値を売るビジネス」と位置付け、その社会的意義と事業性の両立について語った。

長橋氏
長橋氏は、自身が長年にわたり高齢者や障害者の旅行支援に携わってきた経験を踏まえ、「旅に出ることで表情が変わり、心身が前向きになる人を数多く見てきた」と指摘。旅は単なる余暇ではなく、「人を元気にする効能を持つ行為」だと強調した。
その上で、旅行会社がアクセシブルツーリズムに消極的になりがちな理由として、「リスクがある」「ノウハウがない」「儲からない、手間がかかる」といった声が多いことに触れ、「儲からないのではなく、儲ける仕組みを作れていないだけだ」と問題提起した。
自然体験についても、「車椅子利用者に限らず、視覚障害者、発達障害者、高齢者、子どもなど、対象は極めて幅広い」と説明。「自然体験は難しいと思われがちだが、フィールドは山、海、川、湖、さらには農業・林業体験やサイクリング、空の体験まで多様に広がっている。適切なサポートとツールがあれば、可能性は大きく広がる」と語った。
また、当事者の声として、「特別なことは望まない」「完璧なバリアフリーでなく、工夫によって通れるバリアパスでよい」「皆と同じように楽しみ、同じようにチャレンジしたい」といった意見を紹介。事業者に対し、「完璧を目指して止まるよりも、できる形でまず動くことが大切だ」と訴えた。
講演の締めくくりには、「知覚動考(ちかくどうこう)。知る、覚える、動く、考える、の順番が重要。ともかく動こう」と参加者に呼びかけ、実践を促した。
グループ発表、尖った企画と当事者視点が鍵

グループディスカッションの様子
第2部のグループディスカッションでは、旅行業者や体験型観光提供事業者などの参加者が4班に分かれ、誰もが参加しやすく、かつ「行ってみたい」と思わせる自然体験型観光コンテンツとは何かをテーマに議論した。モニターツアーで得られた気付きや当事者の視点を踏まえながら、コンテンツの魅力づくりから訴求方法、販売展開までを見据えた意見交換が行われた。

各班で議論が活発に行われた
最初に発表した班は、「魅力的なコンテンツの条件」として「ワクワク感」と「誰と行くか」という属人的価値を重視。「本当にできるのか」と思わせる尖った体験こそが参加意欲を喚起するとし、当事者が感動体験をSNSで発信することが、最も説得力のある訴求になると提案した。当事者自身からは、「迷惑をかけるのではないかという不安がある一方、心から楽しい体験であれば積極的に発信したい」との声が上がった。

続いて、2番目の班は、「ユニバーサルバーベキュー」をテーマに、健常者にとっても楽しい体験を軸に据える重要性を強調。子ども連れ、高齢者、障害者といった多様な立場に共通するニーズを整理し、「誰かのための特別な企画ではなく、皆が参加できる日常的な体験の延長線上にアクセシブルツーリズムがある」とした。

さらに、3番目の班は、「ドキドキ感」と「諦めを叶える」をキーワードに、キャンプや自然体験を通じた挑戦の価値を提示。これまで諦めていた体験を実現することで、参加者同士や家族間のコミュニケーションが生まれる点に着目し、SNS発信や施設・団体への直接営業など、実践的な販促手法も提案した。

最後に発表した班は、高尾山を題材に、親子三世代で楽しめるユニバーサルツアーを検討。「アクセシブル」や「ユニバーサル」という言葉を前面に出すのではなく、「じいじ・ばあばと行く高尾山」といった分かりやすい切り口で訴求し、裏側で必要なサポートを用意する発想を示した。

販売まで見据えた事業化が課題
総評では講師陣から、「今回の発表は、ターゲット設定や切り口次第で、アクセシブルツーリズムが多様な商品に展開できる可能性を示した」との評価が示された。特別な旅行商品として切り分けるのではなく、一般の自然体験型観光の延長線上で捉える視点が重要だとした。
一方で、アイデア段階にとどまらず、実際の販売方法や価格設定、継続的な収益化までを見据えた事業設計が今後の課題になるとの指摘もあった。実証事業で得られた知見を生かし、旅行商品として成立させるための具体的な工夫が求められるという。
東京都は今後も誰もが安心して楽しめる自然体験型観光の実現に向け、関係者とともに取り組みの発展を目指していく。
【参考】
東京都「誰もが楽しめる自然体験型観光」特設サイトは、以下URLから。
https://www.sangyo-rodo1.metro.tokyo.lg.jp/tourism/accessible/nature
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