アムステルダムでは② 道路だったラウンジにトラムの客室
今回は久しぶりのヨーロッパ、アムステルダムに滞在して、企業の環境保護、資源リサイクルの取り組みが、日本より進んでいるように感じた。
例えば、宿泊先のホテルで、客室の冷蔵庫には水のペットボトルがなかった。牛乳のような紙パックに入った水が1本入っていて、このまま持ち歩くか、マイボトルに入れることを期待されているようだ。
アメニティもタオル以外はなく、その変わりリストが置いてあって、必要なものだけフロントに取りに来てね、というスタイル。環境への負荷が少ない経済活動をしつつ、利益もあげて、持続可能な社会の一員であることが企業の責任ということなのだろう。自社の利益だけを追求していれば「How dare YOU!」とグレタさんに怒られる訳だ。
100周年を迎えるKLMオランダ航空は、「Fly Responsibly 」として航空会社にして、「CO2を減らすためになるべく電車に乗ろう、必要がなければ出張は控え、メールや電話で会議をしよう」と訴えている。
ブッキング・ドットコムのCSRの責任者Marianne氏も、スタートアップ事業への寄付を行うBooking boosterや、自社のスタッフのボランティア活動支援するBooking Volunteer などのプログラムを通し、「サステイナブルな旅行市場の拡大に寄与できる取り組みを続けている」と説明した。
道路に屋根を掛け、ホテルの空間に トラムも客室に
アムステルダムでブッキング・ドットコムが勧めるホテル、ホステルを1カ所ずつ見学させてもらった。
1軒目はHotel Not Hotelというホテル。今年で開業5年目を迎えた。開業当初は10室だったが、現在は26室に増床している。アムステルダムの中心からは少し離れた立地だが、稼働率は平均98%と高い。直接予約や自社のSNS経由の予約が多いという。
サステイナブル旅行を考える上で、最近課題として取り上げられるオーバーツーリズムだけど、中心街から離れたホテルへ旅行者を分散させることは、1つの対策になるのだろうと感じた。
このホテル、設計についての物語性やデザインが多くの旅行者の支持を集めている。フロントやメインのロビーがある場所は、もとは建物と建物の間の道路で、そこに屋根をかけ、ホテルの空間を作り出したというから斬新だ。
客室はすべてオランダ人の新進若手デザイナーの作品で、部屋ごとに違うデザインが楽しめる。客室を指定して予約するゲストも多い。
なかでも人気の客室の1つがトラムの部屋。1960年代まで市内を走っていて、廃車になっていたトラムを、近所の人が共同で買い取り、ホテルにプレゼントした。客室に改装して使っている。
ホテルでは、デザイナー一人一人に敬意を表し、デザイナーの名前と作品名を、博物館風に掲示している。
若手アーティストに作品展示の場と機会を提供
2軒目はClink Noord。このホステルが建つAmsterdam Noord(Northの意)は、以前は工業地帯であり、お世辞にも余暇で訪れたい場所とは言えなかった。
ところが最近は、古い工場や倉庫がおしゃれにリノベーションされ、再利用されている。加えて、観光客の分散化を図るため、映画博物館やアダムタワーの上の展望台、屋上から外に飛び出すスリル満点のスウィングなどのアトラクションが造られ、人々が集い憩うエリアに変貌した。
Noordへは、中心街から陸路行こうとすると遠く、不便を感じるが、アムステルダム中央駅の裏側から、フェリーに乗ればわずか10分ほど。フェリーは24時間、無料で運航されている。徒歩や、フェリーに乗れる自転車、原付であれば中心地からのアクセスはとても良い。
Clink Noord の建物は、元ロイヤルダッチシェルの国際本部とラボがあった建物の一部。入口を入ってすぐ目に入るステンドグラスには、1945年という文字が見えた。
6-7年ほど前に、Clinkシリーズの3軒目となる物件を探していたオーナーが、ここを気に入り、ホステルを開業した。部屋数は235、収容人数は835人と、かなり大型のホステルだ。
予約はブッキング・ドットコムなどのOTAと、自社のウェブサイトからが中心で、稼働率は85-90%と安定している。規模の大きさに加え、アートを重視したことで、他のホステルとの差別化に成功しているようだ。若手のデザイナー、デザイナーの卵などに、ホステル内に彼らの作品を掲示する場を提供している。
ホステルという性格上、ソロトラベラーが多いことから、ゲストとゲストをつなげるためのイベントも毎日のように行っている。ソーシャライズド・ホステルと呼べばいいのか、人と人をつなげる場となることを常に意識し、手伝いをする機会をうかがっている。
今回、アムステルダムのホテルに3泊し、また個性的な2つの宿泊施設の見学を通し、「資源の有効なリサイクル」「脱プラスティックなどの資源のリデュース」「古く歴史ある建物のリノベなどのリユース」に加えて、「個性あるデザイン性」「人と人、人と地域を結びつけるソーシャライジング」などが太い潮流として見えたように感じた。
日本も早く次へ動き出さないと、チコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーよ」と叱れることになりますね。
文と写真(1点除く) 肥塚由紀子
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