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【申請検討者必見】稼ぐ観光への起爆剤に 観光庁「地域観光新発見事業」の狙いとは|観光庁 豊重巨之新コンテンツ開発推進室長×跡見女子大 篠原靖准教授

24/02/07

公募要領は2月8日公開予定、公募期間は3月8日から4月17日

2023年はコロナ禍が収束化し、海外渡航を含めた各種の制限が順次緩和された。インバウンドは急速な回復を見せ、2023年の訪日外国人旅行者数(1~12月)は2507万人となった。観光需要が戻る中、観光庁は2024年度に地域の観光資源を活用した地方誘客に資する観光コンテンツについて、十分なマーケティングデータを活かした磨き上げから適時適切な誘客につながる販路開拓及び情報発信の一貫した支援を行う事業として「地域観光新発見事業」(50億円)に取り組む。同事業の狙いや取り組みで求めることを事業担当者である観光庁観光資源課の豊重巨之新コンテンツ開発推進室長、有識者として跡見学園女子大学観光コミュニティ学部観光デザイン学科の篠原靖准教授に語っていただいた。(跡見学園女子大学で)

観光庁豊重室長(左)と篠原准教授

観光庁観光資源課の豊重巨之新コンテンツ開発推進室長(左)と跡見女子大観光コミュニティ学部観光デザイン学科の篠原靖准教授

インバウンド拡大へ地方分散、観光資源の開拓が急務

――観光の現状について

豊重 観光需要が本格的に回復する中、インバウンドは都市部に偏在傾向にある。データを見ると、東京の宿泊がインバウンド全体の4割弱を占め、京都、大阪までを含めると6割を超えている。この偏りを解消するため、いかにすれば地方に誘客できるかを課題として考えている。

地方への誘客を拡大するには、全国津々浦々に眠る地域の観光資源の力が必要となる。2024年度は、地域観光新発見事業を通じてこれまで以上に地域の観光資源を掘り起こし、観光コンテンツの磨き上げに取り組んでいく。

篠原 コロナ禍の拡大で低迷を余儀なくされていた観光業界だが、2023年度の訪日外国人旅行者数は2507万人となり、コロナ禍前の2019年と比べて79%まで回復した。一方、訪日外国人旅行消費額は5.3兆円と推計され、2019年比で9.9%増と過去最高の結果となった。

――事業予算のメニュー全体の概要について。

豊重 インバウンドは今、大きく戻ってきている。2019年ではインバウンド1人当たりの旅行消費額が16万円だったが、2023年には21万円にまで拡大し、過去最高の水準となった。昨年3月に第4次「観光立国推進基本計画」ができたが、その中で3本柱の戦略となる「持続可能な観光地域づくり戦略」「インバウンド回復戦略」「国内交流拡大戦略」を挙げている。数値目標としてインバウンド1人当たりの旅行消費額を20万円、総額で5兆円の旅行消費額の目標を掲げていたが、2023年は総旅行消費額が5.3兆円となり、インバウンド1人当たりの旅行消費額とも達成したことになる。2024年以降は、この目標を超える勢いを維持することが大事だ。

予算額は、2023年補正予算として約689億円を措置し、2024年度概算要求として、一般財源を約121億円、旅客税財源を約420億円要求している。手厚く予算を確保していくので、観光庁としてもしっかりと支援していく。

篠原 観光立国推進基本計画では、特に旅行消費額の拡大および地方誘客の促進戦略が示されている。2024年度の予算を見ても、日本経済を支える屋台骨としての観光の位置付けがさらに鮮明になった。特に、従来の数を求める観光政策から、旅行消費額を稼ぐ観光に大きく変容していることが分かる。

一方で、回復基調の中でオーバーツーリズムの問題が同時進行で浮き彫りとなっている。私が地域で現状を見て回ると、お客様に来ていただいても消費したくても消費できる物、観光コンテンツが少ない。今は地元の相場観で価格を設定しているところが多いが、インバウンドの需要意欲を見ると、これまでの地域消費の3倍ぐらいの価格でも十分勝負できる。

本事業をうまく活用していただきながら、従来の観光コンテンツを磨き上げてしっかりと高単価でお金が落ちる仕組みを作ってもらいたい。

観光庁観光資源課の豊重巨之新コンテンツ開発推進室長

観光庁観光資源課の豊重巨之新コンテンツ開発推進室長

「稼ぐ観光」実現に向けた3つのポイント

――地域観光新発見事業の役割と内容について。

豊重 これから求められるのは「稼ぐ観光」。特に地域、地方に目を向けていくことが重要になる。重要なポイントは、付加価値をどう見出すかということ。地域の観光資源をこれまでどおりに売っていても、今後さらなる競争があるなかで稼げるかは見通せない。観光客のニーズに対応できるものをどう作るかが重要となる。

地域観光新発見事業は、2022年補正予算を用いた2023年度事業「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」(インバウンドコンテンツ造成支援事業)のいわゆる後継事業となる。

地域観光新発見事業には大きく3つのコンセプトがある。

一つ目は、インバウンドに限らず国内観光客の地方誘客に資する観光コンテンツの造成ができること。2023年は、時流や情勢を踏まえてインバウンドを強調したが、実際に多くの観光地には国内観光客もいっぱい来ている。観光による経済効果を地方にも波及するには、インバウンドに限らず国内観光客も併せて地方誘客を強力に進める必要がある。

二つ目は、マーケティングデータを活かした観光コンテンツの磨き上げに取り組むこと。観光コンテンツは、消費者の要望やニーズを理解したマーケットインの視点で作らなければならない。地域が今この観光資源があるから買ってほしいと言っても、観光客に求められていなければ響かない。自分たちの地域にどのようなお客様が来るか、またターゲットを見極めながらどのような観光コンテンツを提供すればいいかを、マーケットインの視点でデータも使いながら、本物の体験を提供することを目指してほしい。

三つ目は、適時適切な誘客につながる販路開拓および情報発信に取り組むこと。例えば、オフシーズンの活用や早朝・夜間の活用といった時期・時間の分散化に資する観光コンテンツの造成、造成した観光コンテンツの販路開拓や情報発信を工夫することで、適時適切な誘客に資する取り組みとなることを期待している。

篠原 観光庁の事業では、インバウンドの誘客拡大に向けた育成に重点を置いている。これは当然のことだが、本事業では、国内観光客への対応もできるものを作ってもらいたい。観光庁ではコロナ禍にインバウンド向けの事業を多く展開してきたが、実際に地域を見渡すと、事業に行き詰っている現状が見えてきた。観光客の約6割から6割5分は日本人観光客であり、日本人ももっと旅をしたくなる環境づくりがまだまだ大事である。

地域ではDMOなどの組織が数多く立ち上がっているが、いまだに商品造成や値付けを勘に頼っているところがある。マーケティングとマネジメントの二つのMをしっかりつなぐ必要がある。

オーバーツーリズムの解消に向けては、地方で新たなコンテンツを作っても全てが分散することはない。

現在多くの人が訪れている地域でも、ナイトタイムエコノミーの推進による夜時間のほか、朝の時間も活用できる。いかに分散化できるかという話だ。

――事業のネーミングはどう決めたか。

豊重 国内観光客も含め、行きたい場所にいつでも行けて魅力ある観光ができる環境を作らなければならない。観光客には本事業を通じて生まれた新たな観光コンテンツで新しい発見をしてほしいし、事業者には掘り起こした新しい発見から気付きを与えてほしいという思いで名前を付けた。

篠原 本事業は、インバウンドにこだわらず、全国の地域観光の立ち位置を再構築し、訪問者数を目標にする政策から、観光消費を創出するための仕掛けづくりがキーワードになる。本事業は全国の自治体の観光政策を再度見直し、域外からの観光消費で経済を回していくきっかけとなるはずだ。観光による交流人口の創出が叫ばれてきたが、今後はここから一段進み、地域のファンを獲得する関係人口の創出が重要になる。リピーターの獲得やふるさと納税へとうまくつなげてもらいたい。

跡見学園女子大学観光コミュニティ学部観光デザイン学科の篠原靖准教授

跡見学園女子大学観光コミュニティ学部観光デザイン学科の篠原靖准教授

申請者の自由度増、事務負担減、伴走支援の強化を実現

――申請において、「類型1 新創出型」「類型2 販売型」の2つがあるが。

豊重 本事業では、新たに観光コンテンツを造成し、本事業終了後に販売を開始することを見据えた取り組みである「新創出型」と、造成した観光コンテンツを本事業実施期間内に販売することを前提にした取り組みである「販売型」を設けた。

新創出型では、観光の取り組みが十分に行われていなかった地域で新規事業をスタートアップしたい観光事業者等、あるいは新たに観光コンテンツを造成して地域を活性化し、観光のまちとして積極的にアピールしたい地方公共団体等の皆さまに多く応募いただけるようにと、間口を広くしている。

販売型は、これまでにインバウンドコンテンツ造成支援事業や看板商品創出事業等を行ってきた中で、残念ながらモニターツアーで終わってしまっていたものもある。販売価格や販路の見直し、情報発信の強化を行うべく、より魅力的な観光コンテンツの造成に向けて、内容のブラシュアップを図り、ステップアップしたい方々にも手を挙げてもらえるようにしている。

本事業は、最低事業費が600万円で、400万円までが定額、400万円を超える部分については補助率が2分の1となっている。事業費600万円の場合は、補助額500万円、自己負担が100万円で事業が行える。

本事業の特徴として、経費の割合の制限を大きく緩和している。経費として、①観光コンテンツ造成費②設備導入費③プロモーション費―の3つの枠を設けているが、新創出型では観光コンテンツ造成費を事業費の50%以上としているが、販売型では割合の制限を設けていない。また、販売型では、観光資源を活用した観光コンテンツの造成に係る経費における実施主体の人件費及び旅費も対象にしている。事業を通じて、本気で販売するという気持ちを持ってもらいたい。

――応募要領の公開、公募の開始について。

豊重 応募要領は2月8日の公開を予定している。公募期間は3月8日から4月17日となっている。本事業の公式サイト(https://shinhakken.go.jp/)も公開しているので、ぜひ見てほしい。事業紹介のほか、1月25日に実施して約3100人がオンタイムで参加した説明会のアーカイブ動画、申請前支援として観光マーケティング分析支援動画や地域観光新発見オンライン講座などの申請に役立つ動画を公開している。

篠原 大切なことは諦めないこと。全国を訪問すると、「うちの町で観光など無理だ」など、はなから諦めている人が少なくない。しかし、政府は今後さらに観光振興をもとに地域振興を推進していくことになるので、本事業を契機に、再度自分たちが住まう地域の生活文化を見直しながら、新たな観光的価値を向上してほしい。

――事業開始後の支援について。

篠原 今回の事業の特色の一つは、頑張る地域を支援するためのプログラムがたくさん用意されていること。例えば、事業開始後には成果や商品化に向けた支援、さらには観光庁が販路となる道筋を付けながら、従来の専門家の現地派遣に加えてインフルエンサーの派遣を相談できる事業設計となっている。

豊重 本事業では、これまでにない手厚い伴走支援などを行う。申請後では、事業実施期間中の伴走支援として、採択事業者の事業遂行において、地域課題などの解決に向けて、観光コンテンツの磨き上げや販路開拓、情報発信などに資する各種支援を行う。事務局が地域の各事業者と連携し、しっかりした観光コンテンツの磨き上げを支援する。

――2023年度に実施しているインバウンドコンテンツ造成支援事業について振り返ってもらいたい。

豊重 観光コンテンツを造成して地域の人たちが実際に地域を盛り上げた案件はいくつかあった。一方で、反省すべきところとして、地域の方々にとって十分な伴走支援、サポートをし切れておらず、もう少し助言がほしかったという声ももらっている。地域観光新発見事業では、より効率的に無駄のない形で支援をしていきたい。

――地域観光新発見事業でも伴走支援が行われるが、前回の振り返りと共に今回はどう変わるか。

篠原 インバウンドコンテンツ造成支援事業では約1400件が採択されたが、伴走支援がしっかりとできた取り組みは100にも満たなかった。本事業の全体予算は約半分となるが、その分手が届くものとなる。

豊重 本事業では採択後、まずは3つの事業計画磨き上げ支援として、①事業計画磨き上げ説明会・地域観光マーケティングスクール②課題ヒアリングおよび事業者交流会③地域観光マーケティングデータ(日本観光振興デジタルプラットフォームの利用)へのアクセス用の個別アカウント発行―を行う。さらに、事業実施期間中には7つの事業実施支援として、①専門家によるオンラインセミナー等の開催②販路開拓・情報発信支援③地域内での事業者間交流の促進④事業に関する進捗確認・個別相談の実施⑤「地域観光サポーター」(まちづくりや観光分野等の専門家)によるアドバイスの実施⑥旅行会社との商談会の開催⑦成果発表会の開催―を実施する。

――インバウンドコンテンツ造成支援事業では採択事業者が事務局との見積もり調整など対応で苦慮してきたという話を多く聞くが対策は。

豊重 本事業は、事務局を博報堂が担う。効率的に事務作業や審査が行われ、採択事業者が事業に集中して取り組んでもらえる体制を整えている。

これまで事務局との対応が多くなっていた要因として、経費の割合での調整があった。本事業は、特に販売型では経費の割合を問わないことから、調整への労力をなくす。事業遂行の工夫をしながら、申請・採択者にとって費用面などの確認・修正といった手続きの負担の軽減することは強調したい。

――事業主体者による収益納付について。

豊重 本事業では、収益納付は求めない。より多くの事業者がチャレンジしやすくなるようにしている。

対談の様子

対談の様子

長期計画をも見据えた観光コンテンツ開発、販路整備を

――採択審査のポイントについて。

豊重 提出された書類は、①持続可能な観光地域づくりの寄与②独自性・新規性③具体性・計画性④実施体制・持続性⑤収益性―の5つの選定の観点に基づいて審査する。採択通知は5月下旬に行う予定で、事業は交付決定後の6月下旬~7月上旬から、2025年2月28日まで実施できる。

皆さまには、まず事業計画を作っていただきたい。申請の要件の一つとして2024~2026年度の3年分の収支費用の計画を出していただく。収益と費用をしっかりと示していただくことも重要視している。

また、他省庁との連携に関して、農林水産省では農泊地域への支援の取り組みがあるほか、総務省では観光コンテンツを活かした映像の情報発信に取り組んでいる。他省庁との事業の関わりも見させていただきながら、本当に支援する価値があるかどうかを見ていく。

――採択数について。

豊重 インバウンドコンテンツ造成支援事業では約100億の予算で約1400件が採択された。本事業は50億円の予算に対して、相応の採択数を考えている。新創出型、販売型の2つの類型における採択数は、内容や全体のバランスを見ながら決めていく。

――採択地域は、地域が主となるのか。

豊重 観光立国推進基本計画や政府の他の文書との整合性を取り、採択案件の80%以上が地方部(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県を除く地域)となるよう優先採択する。都道府県単位で線引きしているが、除いた道県の中にも都市部から遠隔地や諸島といったさまざまな地域がある。内容をしっかりと見ながら審査したい。

――地域観光新派遣事業の申請では、インバウンドコンテンツ造成支援事業からの継続事業として申請しても良いか。

豊重 もちろん申請していただくことは可能である。新創出型、販売型のどちらの類型で申請しても良い。

――最後に。

篠原 私がいつも言うのは、1年で商品を作り、流通まで整えるのは難しいということ。これまでの事業では、採択後に翌年度以降の計画までを問うことはなかった。本事業では、インバウンドコンテンツ造成支援事業などこれまでに作った観光コンテンツの販売・流通ルートの確立や、新創出する観光コンテンツから想定される翌年、翌々年までの販売の見通しまでをしっかり立ててほしい。

豊重 新たな来訪の目的の創出、観光消費の場の提供、より長期の滞在への誘因、異文化との交流拠点に資するものなど、魅力的な多くの観光コンテンツの応募を待っている。

※豊重巨之(とよしげ・ひろゆき)観光庁観光資源課新コンテンツ開発推進室長。早稲田大学大学院理工学研究科修了、同大学院商学研究科修了。博士(技術経営)。2005年総務省入省後、情報通信政策、電波政策等に従事。2020年に総務省情報通信作品振興課課長補佐などを歴任。2022年にデジタル庁参事官補佐を経て、2023年7月から現職。

※篠原靖(しのはら・やすし)内閣府地域活性化伝道師、跡見学園女子大学観光コミュニティ学部准教授。30年間の旅行会社勤務を経て現職。全国の観光政策に精通し、内閣府、観光庁、総務省、文化庁を始め各省庁の観光政策関連委員を多数歴任。観光地の再生から観光人材育成を手掛けている。

取材:東京事業部  事業部長/記者  長木利通

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