創業者の父から兄弟に託す 日本旅行企画の事業継承(1) 50周年を機に決断
いま、旅行業をはじめ観光産業全体が抱える大きな課題が事業継承だ。持続可能な産業構造の確立に事業継承は喫緊に取り組まなければならない。大阪市浪速区の日本旅行企画株式会社は日本旅行の代理店として1973年に創業し、医師会限定の「ドクターズツアー」という独自の分野を切り開き、今年50周年を迎えた。これを機に4月3日、創業者の山根全勝社長が会長に退き、二男の瑛二さんが社長、三男の大志さんが常務を務め、兄弟2人が同社の舵取りを担う。山根会長、瑛二社長、大志常務の3人に話を聞いた。
土台は作った、建屋は息子たちに
―医師会を顧客としたツアーや手配は創業当初からですか。
山根 当初は企業への飛び込み営業や、相見積もりで他社と競合するなか、どうすれば効率的な営業ができるのかを考えていたところ、航空会社の知り合いから大阪の医師会の関係者を紹介されました。当時、医師会の手配は大手旅行会社でしたが、大手ができないことをやれば勝算があるのではと思って、徹底的に大手の弱いところを研究し、医師会へのアプローチを始めました。
そのうち「大手は営業時間内だけだが、君のところはいつでも何時でも、どのような時にでも電話をかけたら対応してくれる」との評価をいただくようになりました。社員にとっては大変なことですが、仕事はすべて医者からの紹介で利益率が高く、相見積もりの営業や飛び込み営業をするより、やりがいがあったと思います。大阪での評価が高まって今では和歌山、京都、滋賀、奈良、岐阜、名古屋、岡山と広がり、医師会関係で大半のシェアを持つに至りました。
―社員のマンパワーがすごいですね。
山根 社員はつねに新しい情報を得て他社にはない旅行プランを提供しています。現在14人の社員がいますが、総合旅行業務取扱管理者は8人おり、皆よく働いてくれています。
―ご子息に事業を継がせようと思われたきっかけは。
山根 1973年に代理店から旅行業を始め、すぐに第2種旅行業を取得し、医師会と提携した「ドクターズツアー」や富裕層向けの「旅の貴賓室」といったツアーで実績をつけ、2018年には観光庁登録旅行業(1種)を取得しました。
土台は作ったので、その上にどんな建屋を作るかは、息子たちに託そうと思いました。私が独立して旅行業を始めたのが29歳。ちょうど今年、瑛二が同年齢になり、創業50周年の節目を迎える年になることから継承を決断しました。

土台は作った。
建屋を建てるのはお前たちだと、父から子へ伝える
―後を継ごうと思ったのはなぜですか。
瑛二 長男がいて3人兄弟なんですが、兄が高校3年、私が中学3年のときに父から会社を継ぐ気があるかどうかを聞かれました。サラリーマンではなく起業しようと思っていましたから、兄が継がないと言ったので、それなら私が後を継ぎますと伝えました。大学の4回生になる春休みから通常業務で働き始めて今年で10年になります。
大志 私は入社せず大学院へ進むつもりでしたが、父からどのような思いで会社経営をしてきたかを聞き、私自身も会社存続の役に立ちたいと思い、兄を手伝う気になりました。一度外に出てみることも考えましたが、父の年齢を考えると最初から勤務し、少しでも長く社長である父と一緒にいて経験を積もうと決意しました。
大学が理系で、4回生になっても毎日大学へ通う必要があり、土日曜だけ出社し会社のシステム関係の手伝いをしていました。旅行業は大学を卒業してから学び始めましたが、今も社内のシステムなどコンピューターに関連することは私が担当しています。お客様の目を引くためパンフレットは凝った作りのものになって、外注するとデザイン費が高いんですね。これを克服しようとコロナ禍の仕事がない時に、自社で作成できるようシステム化しました。このほかにも兄と一緒に社内業務のシステム化をコロナ禍でかなり進めることができました。
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