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【特別寄稿】「サステナブルな地域観光」のために―旅行者・観光事業者・地域住民の「三方よし」を目指す(2)

地域の魅力づくりには、「地域外人材」の活用が有効

では、その地域ならではの魅力をどのように打ち出せばいいのでしょうか。実のところ、地域で生まれ育った方々だけでは難しいのではないでしょうか。
自分たちにとっては「当たり前にあるもの」なので、外部の人から見た魅力に気付けていないことが多いのです。

そこで地域の魅力を引き出して発信するために、地域外の人材の活用が有効です。
近年、全国各地で効果を生み出しているのが「ふるさと副業」。大都市圏で働く人々が、地方企業で副業・兼業する働き方です。ミーティングや業務をオンラインで行える環境が整ったことから、「ふるさと副業」に従事する人が増えています。

リクルートが手がける「ふるさと副業」の人材マッチングの一例をご紹介しましょう。

和歌山県田辺市にある人口70人の集落で空き家をリノベーションした宿泊施設を運営する「SEN.RETREAT TAKAHARA」。「SNS の運用やイベント企画のクオリティ向上」「ECなどの新規事業着手」を課題とし、「ふるさと副業」プロジェクトに参加して人材を募集しました。

副業者として採用したのは東京在住の30代の方など4名。IT企業でSNSマーケティングに従事している方、アパレル企業でデジタルマーケティングに従事している方などです。
SNS運用やイベント企画作成、EC・CRM の経験が豊富な副業者が、その地域や宿の魅力を見出したうえで、企画や運用を実施。結果、SNS のフォロワー数は倍増し、学生インターンを巻き込んだ発信の仕組み化も実現しました。

「自身のスキルを生かして地域に貢献したい」と考える方は多いため、「ふるさと副業者」を活用するのも有効な手段といえるでしょう。

「より良いおもてなし」ができる環境が、人材定着につながる

「ふるさと副業者」を活用した事例では、運営者は一部業務を副業者に任せることで、宿泊施設として注力したい事業へ集中できるようにもなっています。
このように工数を削減し主要な業務に集中するという面では、デジタルの活用も重要です。DX(デジタルトランスフォーメーション)によって働き手の負担を軽減すれば、長く活躍し続けられることはもちろん、接客サービスに注力できるようになりお客様の満足度向上にもつながります。

次にご紹介するのは、鳥取県米子市の旅館「皆生松月/皆生游月」の取り組み事例です。
同施設では、各種業務を基本的に人力で行っており、従業員負担が大きい状態でした。それに伴い、「遅い」「忘れた」「間違えた」などの伝達ミスも多く発生していたのです。

そこで、これまで「口頭・手書き」で行っていた部署間連携に「タブレット」を導入。食事に対するお客様の要望が即時に調理場に伝わるなど、連携がスピーディ・スムーズになり、ミスやトラブルの減少につながりました。

また、予約受付を電話からWebへ移行。電話1件につき約15分を要し、「言った」」「言わない」のトラブルも発生していた状態でしたが、ホームページでの予約に誘導する工夫によって電話予約数・対応時間・トラブルを大幅に削減。予約対応スタッフ数も常時4~5人から2人になり、待機時間も短縮できています。

このほか、総務経理・集客・館内案内にもデジタルツールを取り入れることで全体の運営効率が向上しました。
オンラインで対応できる業務を増やせば、「在宅勤務」も可能になり、育児中の女性の離職防止にもつながる可能性があります。

DXの効果は省力化・効率化だけではありません。
従業員の皆さんからは、「以前は目の前の対応に追われ、旅行者の様子に目を配るのが難しいこともあったが、今では宿泊客から聞かれる前に困りごとに事前に気が付けるなど、周辺に目を配る余裕が持てるようになった」との声が聞こえてきています。

宿泊施設を持続可能な状態で運営していくために、「モチベーションの向上」「現場で働く人の満足度向上」は欠かせない課題です。
ミスによってお客様や上司から叱責を受けると、従業員は苦しくなり、仕事を楽しむことができません。しかしDXにより「遅れ」「漏れ」「誤り」の削減や効率化が進めば、おもてなしに注力できるようになり、「ありがとう」の言葉を多く受け取れるようになります。そうすれば働く喜びを感じられ、定着しやすくなるはずです。

ES(従業員満足度)がCS(顧客満足度)につながる。ひいては業績の向上につながっていく流れが期待できるでしょう。

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