旅する講談コラム
講釈師が語る円山応挙その三 見たことのない太夫が現れる
「礼を言われるのも恥ずかしい。ええか?病は気からと言うてな、気を確かに持って居たら体も丈夫になるもんや。それから今度は私の頼みや。まぁ頼みと言うよりも、お前さんの身寄りを見つける手立てにもなることなんやが、ちょっとお前さんの絵を描かせてもら...
講釈師が語る円山応挙その二 紫、形見の「唐錦の匂袋」出す
「私が全盛のころには、米つきバッタのようにぺこぺこと頭を下げて、こちらに何かと気を遣ってくれましたが、この通り私が病に罹ってからというものは『早う死ね、死んでしまえ』とばかりに、医者はおろか、薬すら飲ましてもろうた覚えはございません」「不憫...
講釈師が語る円山応挙その一 飲み過ぎて夜中に目を覚ますと
江戸後期写実派の絵師と言うより、幽霊画の絵師として有名な円山応挙。元は京都の生まれで、若い時分から絵道具一式を持ち日本六十余州を渡り歩きながら修行の日々。丁度九州の長崎へ立ち寄った折、ご贔屓の案内で円山遊郭の巴楼で遊ぶことになります。大体お...
講釈師が語る荒川十太夫最終回 武庸の忠義が他の者の徳になる
荒川十太夫は緩やかに首を差し出しますと松平隠岐守が刀で以って勢いよく振り下す、血煙上げ荒川十太夫は「ドサリ」と倒れ辺り一面唐紅となるかと思いきや、一寸手前で刃を止め、微笑みながら鞘へと納めます。 「先程の一刀で嘘偽りを申した不忠者を成...
講釈師が語る荒川十太夫その六 瞑目合掌、型の如く立派な最期…
御検視の御歴々、威儀を正して控えておりまする処へ白き衣類に無紋の裃、ゆったりと座に直された安兵衛殿はあくまでも剛担、死をみる事帰するが如くの武士(もののふ)運ばれましたる九寸五分の短刀を取り上げ、じっと見つめることしばらく、静かに某を顧みて...
講釈師が語る荒川十太夫その五 松平の殿様に「先ずは…」と話す
平生は後ろ姿も拝めぬ位の上つ方が、今目の前においでになるので、大抵の者が慌てふためいて「へぇへぇ!」額を擦り付けるほどの平身低頭、右の者はカレイの如く、左の者はヒラメの如し、真ん中の者はマンタの如く、中には勢い余って、そのまま三点倒立に及ん...
講釈師が語る荒川十太夫その四 松平の殿様に平身低頭する十太夫
「お磯」「はい」「こちらに来てくれぬか?」「何か御用事で」「いや、その、いや何でもない、訳でもないが、そうでもないない」「何を仰っておられます?」「いや、何だ、その、はぁ…」「貴方様。ため息は命を削る鉋かなと申します。悩みの半分をこの磯にも...
講釈師が語る荒川十太夫その三 五佐衛門、沸々と怒りが湧いて…
「いやいや、お恥ずかしい。時に和尚、今日は御浪士の三回忌、随分参られた方々もあったようですな?」「えぇ。それはもう。赤穂の御浪士が預けられました、大名家の御家来をはじめ沢山の御参詣で。中でも松平様御家中の方々は多く見受けられましたな。それに...
講釈師が語る荒川十太夫その二 出会い頭に山門で杉田様と出会う
仲間を従え山門を潜ろうと致さば、出会い頭に二人の下郎を伴った立派な身なりの武士。この体をじっと眺め入った五左衛門が不審の眉を寄せながら 「暫し待て」「あ!これは杉田様!」「お主、当家の荒川十太夫ではないか?」「杉田様も御墓参でござるか...
講釈師が語る荒川十太夫その一 赤穂浪士への墓参が絶えぬ泉岳寺
宝永二年(一七〇五年)如月の四日は赤穂義士四十七士の三回忌。此の日は見事な日本晴、江戸の芝高輪万松山泉岳寺は、朝から義士の親類縁者は言うまでもなく、この義党にあやかろうという老若男女が途切れる事なく詰め掛け、境内は人で埋まるような雑踏。 ...