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講釈師が語る荒川十太夫その三 五佐衛門、沸々と怒りが湧いて…

「いやいや、お恥ずかしい。時に和尚、今日は御浪士の三回忌、随分参られた方々もあったようですな?」「えぇ。それはもう。赤穂の御浪士が預けられました、大名家の御家来をはじめ沢山の御参詣で。中でも松平様御家中の方々は多く見受けられましたな。それに御物頭役、荒川十太夫様もつい先程、帰られたばかり。あの御仁も特別縁故でもあると見えて、忌日忌日には必ず欠かした事は御座りませぬ」

「今何と?当家の物頭? 荒川十太夫が参りましたかな?」「如何にも」「それは徒士の間違いでは?」「いいえ、決して間違いではありませぬ。先ほどの荒川様がご持参のお布施が御座います。ご覧下さいませ」

包み紙には墨痕鮮やかに『松平隠岐守 物頭役 荒川十太夫』と認めてあるから、杉田五左衛門が腹の底より怒りが沸々と湧いて参りまして

「お目見え以下の軽輩が、斯様に堂々と身分を偽るとは不届き千万、あの男は気が触れておるのか? 身共、野暮用を思い出しました。之にて御免」

和尚の前では怒りを抑え、挨拶もそこそこに、泉岳寺を立ち出でて「荒川十太夫の身分は極く軽い三両二人扶持。さりながら文武両道に秀でたる者として前年赤穂浪士切腹の砌には堀部安兵衛殿の介錯を命じられ見事に其の役目を果たした天晴れなる人物と家中でも評判となったが自惚れおったな。言わば寄席に出ている噺家が地方巡業の折、落語は下に見られ面白くないと思われるのが嫌だから、その時だけ起承転結がはっきりしている講談を披露しさらに、取って付けたようなオチを付けておいて…

(旭堂南龍=講談師)

(トラベルニュースat 2023年11月10日号)

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