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川遊びを通じて支援を学ぶ、東京都が「秋川渓谷自然体験モニターツアー」を開催

東京都は9月10日、「令和7年度 誰もが楽しめる自然体験型観光推進事業」の一環として、あきる野市の秋川渓谷で「秋川渓谷自然体験(チェアリング&川釣り&SUP体験)障害者サポート運営体験」モニターツアーを実施し、自然体験型観光を楽しんでもらうための環境整備と商品造成について研修を行った。

モニターツアーに障害者5人など総勢27人が参加

東京都では、障害者や高齢者等が、東京の自然を安心して楽しめる観光を推進するため、旅行業者、体験型観光提供事業者等を対象として、障害者等向けの自然体験型観光プログラムの運営ノウハウを提供する取り組みを開始している。

モニターツアーには、応募した障害者5人とその介助者、旅行会社、都内で自然体験型学習を提供する事業者など、総勢27人が参加した。以下、ワークショップの様子を紹介する。

現場での配慮を実感、車いすと誘導の体験

ツアーの冒頭では、プランニングネットワークの渕山知弘氏(オフィス・フチ)の指導のもと、野外での車いすや補助機材の取り扱いを学ぶプログラムが行われた。参加者は、視覚障害のある方への正しい「手引き」の方法に加え、アウトドア用車いす「HIPPOcampe」と「モビチェア」、そしてや車いすけん引装置「JINRIKI」の使用を体験。

アウトドア用車いす「HIPPOcampe」(左)や「モビチェア」(中央)、車いすけん引装置「JINRIKI」の使用方法の指導を受けて実体験

アウトドア用車いす「HIPPOcampe」(左)や「モビチェア」(中央)、車いすけん引装置「JINRIKI」の使用方法の指導を受けて実体験

アイマスクを装着して誘導を受ける体験では、「腰を押されると恐怖を感じる」「細い通路に入ると圧迫感が強まり感覚が敏感になる」といった声が上がり、現場で求められる繊細な配慮を実感する機会となった。

アイマスクを装着・誘導しながら河原やあい路を移動

アイマスクを装着・誘導しながら河原やあい路を移動

秋川橋河川公園で体感する「誰もが楽しめる」川遊び

秋川橋河川公園での自然体験は、まず川辺までの移動から始まった。砂利や段差が多い河原は車いす利用者にとって大きな障害となるが、アウトドア用車いす「HIPPOcampe」や車いすけん引装置「JINRIKI」を活用し、参加者は事業者のサポートを受けながら無事に川辺へ到達した。補助機材の有効性を確かめるとともに、現場での支援のあり方を学ぶ機会となった。

川辺では、清流の浅瀬に椅子を設置して足を水に浸し、せせらぎや涼風を感じる「チェアリング」を実施。参加者からは「水の流れや温度が直接伝わり、自然との一体感を味わえた」との声も聞かれた。続いて、地域で古くから親しまれてきたハヤ釣りを体験し、地元文化に触れながら魚との駆け引きを楽しんだ。

さらにローチェアを載せた大型SUPに乗り込み、水面を進むプログラムも行われた。東京山側DMCやぼちぼちアドベンチャーすそのといった専門家がサポートにあたり、障害のある参加者も安全に水上散歩を体験。観光事業者にとっては、実際の支援方法や声かけのタイミングを確認できる実践の場となった。

SUPやチェアリングや川釣りなど、川遊びを体験する参加者

SUPやチェアリングや川釣りなど、川遊びを体験する参加者

情報発信・機材導入・環境整備の三本柱でバリアを一つずつ解消

中村自治会館で行われたワークショップでは、ユニバーサルツーリズム総合研究所の長橋正巳理事長が登壇し、「誰もが安心して参加できる観光」の実現に向けた視点を解説した。冒頭に長橋氏は、「障害のある人や高齢者が観光に出かける際には、必ず移動や情報不足などの壁が存在する。それを事業者が正しく理解し、一つずつ解消していく姿勢が求められる」と語った。

ワークショップの様子

ワークショップの様子

講義の中では、特に重要な要素として ①情報発信、②補助機材の導入、③環境整備の三点を強調。情報発信については、交通アクセスやバリアフリー設備の有無、段差やトイレの状況などを事前に明示することの大切さを説明。「行けるかどうか分からない」という不安をなくすことで、参加のハードルを大きく下げられると指摘した。補助機材については、今回体験したアウトドア用車いすやけん引装置などを例に挙げ、「これまで諦めざるを得なかった自然体験が、適切な機材を使うことで可能になる」と話した。導入コストが課題となる点にも触れ、国や自治体の補助制度を活用すれば現実的に導入可能であると具体的に示した。環境整備では、仮設スロープや簡易ベンチの設置など、小さな工夫でも大きな改善につながることを紹介し、「現場スタッフが当事者と同じ行程を歩くことが、最も効果的な改善のヒントになる」と実体験の意義を語った。また長橋氏は、ユニバーサルツーリズムを「福祉的な配慮」と捉えるのではなく、観光産業の成長戦略として捉えるべきだと述べた。

①情報発信、②補助機材の導入、③環境整備の3点を強調するユニバーサルツーリズム総合研究所の長橋正巳理事長

①情報発信、②補助機材の導入、③環境整備の3点を強調するユニバーサルツーリズム総合研究所の長橋正巳理事長

講義の最後には、仏教の言葉「知覚動考(知る→覚える→動く→考える)」を引用。「まず知り、理解し、次に行動に移し、その後に振り返って考える。この流れを繰り返すことが、現場の改善や新しい観光商品の創出につながる」と述べ、学びを実践に変える姿勢の重要性を訴えた。会場の参加者にとっては、単なる研修ではなく、自らの事業に落とし込むための行動指針となる言葉となった。

参加者の声に広がる学びと実感

参加者からは次のような声が寄せられた。

  • 「SUPに乗ったのは初めてで、水面の揺れや風を肌で感じながら進むのがとても新鮮だった。サポートしてもらえたおかげで安心して挑戦できた」(視覚障害者)
  • 「旅行に出たい気持ちはあっても、サポートがないと不安で諦めてしまうことが多い。こうして支援を受けながら体験できるのは本当に心強い」(聴覚障害者)
  • 「現場でどう声をかけ、どのように誘導するかを体験的に学べた」(旅行会社社員)
  • 「車いす利用者の移動に必要な工夫を知ることができ、今後の商品づくりに役立つ」(旅行会社経営者)
  • 「行政と事業者が一体となり、現場での課題を共有することが今後の政策づくりにもつながる。このような取り組みをさらに広げていきたい」(東京都議会議員)
体験への満足度の高さや、体験コンテンツの拡充に向けて意欲を語る参加者

体験への満足度の高さや、体験コンテンツの拡充に向けて意欲を語る参加者

市場拡大と補助金活用への呼び掛け

閉会にあたり、東京都産業労働局観光部受入環境課の西島裕樹課長は、「ユニバーサルツーリズムの潜在市場は4,000万人規模とされ、今やインバウンドを超える可能性がある。誰もが安心して楽しめる観光を進めていくことは、とても価値のある取り組みということだけでなく、事業者の皆様にとっても、大きなビジネスチャンスにつながる」と述べた。さらに「障害のある方や高齢者の方々とコミュニケーションをしっかりと取り、個別のニーズを踏まえてサービスを提供することは、ホスピタリティの向上を通じて観光全体の質を高めることにもつながる。今回の気づきをぜひ現場で活かしてほしい」と呼び掛けけた。

加えて西島課長は、補助金制度についても紹介。今回体験したアウトドア用車いすやけん引装置などの導入費用について、上限200万円(施設整備を伴う場合は最大500万円)まで高い補助率で支援される仕組みが用意されていることを説明。「制度を積極的に活用していただき、各地域でアクセシブルな観光環境づくりを進めてほしい」との思いを伝えた。

東京都産業労働局観光部受入環境課の西島裕樹課長

東京都産業労働局観光部受入環境課の西島裕樹課長

【参考】

東京都「誰もが楽しめる自然体験型観光推進事業補助金」の詳細は、以下URLから。

https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/tourism/kakusyu/nature

東京都「誰もが楽しめる自然体験型観光」特設サイトは、以下URLから。

https://www.sangyo-rodo1.metro.tokyo.lg.jp/tourism/accessible/nature

 

 

 

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