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“民の力”で迎えた市制100年・北海道小樽市(4) 「小樽ガラス」が紡ぐ歴史と未来−シンポジウム2

−淺原先生は北前船の航路をたどるように、大阪から小樽に来られたんですね。

淺原 祖母が昔、同姓の浅原硝子が小樽にあるので訪ねたことがあったそうです。その話を母親から聞いていて、小樽に浅原硝子があるんや、1回会ってみたいなと思いを募らせていました。ある時、GパンにTシャツ姿の人がトラックに乗って訪ねてこられた。直感で「浅原さん?」と聞くと「はい」となり、北海道でガラス屋をやる夢があると語ったわけです。景色のいい所で製作すると美しい作品が生まれると思っていたからです。そうしたら、ぜひとも来てくれないかと。北一硝子は自社工場がなく、当時はバックパッカーがたくさん来て買い物して製造場所を見せてと言われて浮玉工場を見せたりしていたそうなんですが、およそアート的な雰囲気はありません。何度か通ってみると、小樽は本当にいいまちで、歴史があり風土がとても素敵、運河保存運動の最中で市民が一丸となって行政に対抗しているエライところやと思いました。すごく魅力を感じて、小樽で自分がしたいガラスをやれたら幸せだなと思って、ここへ来たわけです。

北前ロードがもたらし誕生 高野さん

高野 今、淺原さんのお話を興奮して聞いていました。明治30年代半ばで北前船は衰退しますが、北前船を利用したヒト・モノ・文化の道「北前ロード」はずっと継続していると感じました。北前ロードがもたらしたものの一つと小樽ガラスは位置づけられ、北海道の美しい景色と、大阪の古い歴史を持つガラスが組み合わさった時に小樽ガラスが誕生したと聞き興奮しています。

小樽ガラスは知名度が非常に高い。2007年の朝日新聞が紹介していますが、好きなガラスの1位に小樽ガラスが選ばれています。江戸切子、長崎ビードロなどのブランドを抑えての1位で、小樽ガラスのブランド化は成功しています。では小樽ガラスのイメージは何かと言うと、決まった製法や素材を使うということはなく、イメージの部分が多分にあります。観光資源としての北一硝子、アート作品としての淺原さん、2003年に進出した深川硝子工芸の産業としてのガラスがそろい、その総体が小樽ガラスになっています。

ブランディングについては、小樽商工会議所が平成17−19年にJAPANブランド育成支援事業に取り組みました。ガラス工房はそれまでネットワークがなかったと聞いていますが、これをきっかけに平成19年から「小樽がらす市」が始まり、手宮線跡を活用し作家のネットワークができて観光イベントに成長しました。小樽ガラスとは、概括的なブランドであり小樽にあることが本質です。今後はブラッシュアップして地域ブランド化すべきなのか問われる時期に来ているのではないでしょうか。

小樽ブルー

淺原千代治さんの「小樽ブルー」の作品
(大阪市内の個展で)

飲食を引き立てるガラスの力 野田さん

−オーセントホテル小樽の1階売店にガラス作品が展示され、野田さんが活躍するバーでもいろいろなグラスをお客様に提供されていると思います。ガラスを提供、販売する側から一言いただけますか。

野田 旅の目的で小樽の魅力は、食だと思います。それと飲む。ワイナリーやウイスキー、ブルワリー、日本酒があり、水がきれい。こういうところで、よりグラス、ガラスにこだわっていくとどうなるのかといつも考えています。館内に淺原先生の作品を置いているのも、ガラスの魅力や価値を旅する人に伝えたい一つのメッセージです。もしできるのであれば、これだけ美味しいものを作れるシェフがいるこのまちのテーブルウェア一つひとつがオール小樽ガラスであれば、どんなに素敵なことでしょう。地元の花をガラスの花器に挿して、地元の野菜や魚を美しいガラスの上に並べ、なおかつ小樽を代表するワインやスピリッツをそれに適したグラスで提供する。食を目的とした旅のバックグラウンドとして、ガラスの持つ力は非常に強いと感じています。

淺原 それ、とてもいい。うちで作っている「小樽ブルー」のグラスは手づくりだから氷がこんな音で鳴るという物語を野田さんがお客さんにバーで話してほしいな。こんな話もある。毎日毎日、店の外からおじさんがバーを覗き見ていた。ある時バーテンが店の中に招き入れ「いくら持っている?」と聞いたら「1シリング」という。では1シリング飲ませてやろうと言って、スポイドでポロンと落とした程度の量を提供してあげるわけです。おじさんは香りを嗅いで「あ〜」、舐めて「あ〜」と。その逸話から僕がワンシリンググラスをつくって、親しくなった札幌のバーに差し上げた。バーはそういう物語を生む。

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