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講釈師が語る一休さんの三十一 物乞いに一太刀打ち込まれる

桃井若狭介の葬式に於いて、あまりにも華美し過ぎた為に、一休禅師が戒めの歌を詠む。居並ぶ者は呆れて首を傾げておりますが、その中でこれを悟ったのは本願寺の蓮如上人ばかりで。そんなことを一向意に介さず、さらに仕上げとして一休が

『極楽の 西方浄土は 遥かなり とても行かれぬ 草鞋一足』『慈悲もせず 悪事もなさず 死ぬる身は 地蔵も褒めず 閻魔も咎めず』

と高らかに仰せられた。これは町人でも大名でも死ねば六文銭に草鞋一足を決まっていて、大名だからと言って、まさか草鞋の二十足も三十足も入れる者ではない。そこで死んで仕舞った後はどうでもいいのだと考えた。

しかしながら一休も「わしも若い時分は、迷うてばかりであった」と思い返したのが宗純から一休と改め、悟りをひらいてまだ日が浅い頃、冬の京都。底冷えの朝、雪がチラつく、鴨川の辺を歩いておりますと、向こうから破れた単衣を着て震えながらやって来る乞食が居りました。それを見ると一休は前後の考えもなく、小袖を脱いで「おぉ寒いじゃろう。これを着て行けよ」と与えます。ところが物乞いの男が、礼も言わずそのままに行こうとした。

「不思議じゃ。哀れと思えばこそ、自分が寒さに震えるにも構わず、衣類を脱いで与えたが、あぁいう者は僅か一文二文の銭を貰っても、礼を言うが、あの物乞いは何も礼を言わん。これこれ、着物を貰って嬉しくはないのか?」「お前さんは着物を与えて、嬉しくはないのか?」と言われて一休が打ち込んだ太刀を見事に外されたばかりか、かえって一太刀打ち込まれた心持になり「なるほど、これはワシの不覚であった。この年になるまでこんな事に気が付かなかった。もしこの物乞いに会わなかったら不覚人として終わる所であった」と思うとふっとその物乞いの姿が消えてしまった。後に残ったのは松風の音、覚めれば一睡の夢であった…

(旭堂南龍=講談師)

(トラベルニュースat 2023年2月10日号)

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