講釈師、名僧の幼少期も語る 「降る雪が…」千菊丸うたう
名僧一休禅師の父親は北朝方の後小松天皇。また、母は南朝方の楠正成の血を引く照子、つまり伊予の局。帝から寵愛を受け、いつしか伊予局が身ごもってしまうが妬む者も現れた。
「御存知で?」「一体何を?」「あの伊予の局は、南朝方でありますから、いつも懐に短刀を忍ばして、帝を亡き者にしようと企てております」「左様で南朝方は粗暴極まりない」
斯様な噂が宮中に立ちましたから、伊予の局は身重でしたが宮廷を出て行かなければならなくなり、京都は嵯峨野の辺りのあばら家で侘び住まい。
やがて応永元年一月一日、玉のような男の子を産み名前を千菊丸。伊予の局は誠に教養の高い方で倅を甘やかさずに、厳しく育てました。
また帝の計らいで玉江という侍女、色々な身の回りの世話をしております、この玉江は千菊丸の乳母の代わりとなり、良い遊び相手でもありました。
玉江が「若様」と呼べは、「なんだ?たまえ」とは言いません。口が悪い千菊丸は玉江が地黒なので「おくろ」と呼んでからかっておりました。
この千菊丸が六つになった十二月の暮れ、冬の事であります、外には雪がちらちらと降っておりましたから、玉江が「若様はもう六つになったのでありますから、この降る雪をご覧になってお歌をお作りになって如何でございます。かの菅原道真公は七つの時には、このように雪が降る日に小督(こごう)という乳母が傍にいて『降る雪が 綿綿なれば 手にためて 小督の袖に 詰めたくぞ思う』とお作りになったそうでありますよ」…
(旭堂南龍=講談師)
(トラベルニュースat 2020年3月10日号)
- 講釈師が語る円山応挙その三 見たことのない太夫が現れる(24/07/19)
- 講釈師が語る円山応挙その二 紫、形見の「唐錦の匂袋」出す(24/06/20)
- 講釈師が語る円山応挙その一 飲み過ぎて夜中に目を覚ますと(24/05/21)
- 講釈師が語る荒川十太夫最終回 武庸の忠義が他の者の徳になる(24/04/19)
- 講釈師が語る荒川十太夫その六 瞑目合掌、型の如く立派な最期…(24/03/21)
- 講釈師が語る荒川十太夫その五 松平の殿様に「先ずは…」と話す(24/02/19)
- 講釈師が語る荒川十太夫その四 松平の殿様に平身低頭する十太夫(23/12/15)