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講釈師が語る黒雲の辰その四 七十五両が八十五両に増え戻る

「喜びな、お爺さんの命は助かった」言いながら懐より次から次へ「此の財布には十両も入っているはず、おや十一両、豪気なもんだね、こっちの紙入れは七両二分、これは巾着で五両一朱、こっちはバカに軽いね。たったの二百文。これは講釈師の財布だ。紋付(羽織)袴で身なりが良いからスッたんだけど、アイツらは駄目だね」

まさかそんなことは言いますまいが、やれ三両五両十両と、段々揃えて八十両ばかりと纏まった「さぁ持って行きな。それから別に五両、これは帰りの路銀だ。此の後、人の遣いを頼まれても金づくの事だけは断りなよ。お爺さんの様な正直者が、金の事で命をなくしてしまうのは、馬鹿げた事だからね」「そない言いはりますが、こんな大金を縁も所縁もないあんたから、一体、何をしてなはるお方でやす?それを聞かん事にはわしも心配で」「まぁそりゃそうか、八十五両という大金を遣るんだ、私ゃ只者じゃないよ。実はお爺さんの取られた七十五両は、いずれ私の懐に入ってくる」

「そりゃまたどう言う訳で」「私はね。掏摸仲間は言うに及ばず盗人稼業をしている者なら誰一人として知らぬ者はない黒雲の辰という女白浪」「やっぱり泥棒…様!あんたがどさっと財布を出した時に、拾うて来たとしても江戸という所は仰山落ちてるんやな」「そんな訳ないだろう。丁度両国は私の縄張り、手下の仕業で人が死ぬ。こりゃあまり気持ちの良いものでもないからね。金持ちだけから盗めと命じていたんだがお爺さんもよっぽど油断をしていたんだろう。それに此れは何の誰兵衛、どこの何右衛門と言う十両位の金で死ぬ様な者からはスッてないから安心をし」…

(旭堂南龍=講談師)

(トラベルニュースat 2025年10月10日号)

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