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講釈師が語る荒川十太夫その二 出会い頭に山門で杉田様と出会う

仲間を従え山門を潜ろうと致さば、出会い頭に二人の下郎を伴った立派な身なりの武士。この体をじっと眺め入った五左衛門が不審の眉を寄せながら

「暫し待て」「あ!これは杉田様!」「お主、当家の荒川十太夫ではないか?」「杉田様も御墓参でござるか?」「如何にも、確か其の方は身分は徒士、お目見え以下の軽輩が、何故、物頭の扮装(いでたち)を致しておる。其の上、仲間まで召し連れるとは、よもや茶番狂言でもあるまい。本来ならば早々引っ立て、詮議に及ぶところであるが、墓参の途中故、先ずは見逃しおく。なれども屋敷へ戻り次第、沙汰を下すによってそれまでに控え居れ」「はぁはぁ」

荒川十太夫は真っ赤になって俯き、一言も返す言葉がない。それを尻目にして杉田五左衛門は三平とともに境内へ消えていく。後に残された者が「おい」「え?」「えらい目に遭うてしもうたな」「何や分かれへんが取って喰てしまうような勢いやったで」「あの旦さん、わしらは日雇いの仲間奉公やけども、あの様子やったら只事やおまへんな? あ!ひょっとして、あのお方からよっぽど金借りた?」「アホなこと言うな、借金してるねや」「同じことやないかい、あの旦さん?」

「お前達にまで要らぬ心配をかけてしもうた。大したことではない。此度も誠世話になった。墓参も滞りなく済ませることができたによって、これは今日の骨折り賃。帰りに一杯やってくれ」「さいでやすか? 旦さん、度々気を遣うて頂き、ありがとうございます。ほたらこれで」「…はぁ。人もあろうに最も家中の掟を重んじるお目付役の杉田様と門前で出会うとは悪い事はできんものじゃ。損料借りの衣類、大小、これも着納め、差し納めか」…

(旭堂南龍=講談師)

(トラベルニュースat 2023年10月10日号)

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