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講釈師が語る荒川十太夫その四 松平の殿様に平身低頭する十太夫

「お磯」「はい」「こちらに来てくれぬか?」「何か御用事で」「いや、その、いや何でもない、訳でもないが、そうでもないない」「何を仰っておられます?」「いや、何だ、その、はぁ…」「貴方様。ため息は命を削る鉋かなと申します。悩みの半分をこの磯にも分けて下さいまし」「出し抜けではあるが、其方に離縁状を遣わす」「ええ?旦那様、何故の御離縁で。私は去られる覚えはございません」「如何にも其方には何の落ち度もない。しかしわしは今日が日まで大それた事をしていたのじゃ」「大それたことを?」「実は足掛け三年の間、松平家の掟を破り続けておった、なれども決して恥ずべきことではない。また人の道を踏み外した訳でもないから安堵致せ。しかしながら松平にとっては許し難きこと、追っ付け召捕りの役人がまいるであろう。さすれば再びこの家の敷居を跨ぐことは出来まいと思うから離縁状を認めた。お前はまだ若く二親もある身、必ずとも短気を起こしてはならんぞ分かったな?」「一旦嫁いだ其の上からはどの様なことがあろうとも生きるも死ぬるも貴方様次第。離縁状などは胴慾と言うもの。一体何がございましたか? お話しを願います」

目に一杯涙を浮かべながら詰め寄ったところへ屈強なる若侍五、六名ガラリと戸を開け「荒川十太夫、御上意によって召し捕りに参った。神妙に致せ」「はぁ!お待ち致しておりました。お役目誠に忝うございます、いざお召し連れ願います」「貴方様」

縋る女房を振り払い自ら進んでお縄に掛かる、流石に縄尻取って引き立てる者達も、初々しい新妻の涙を見ては、誠に気の毒の至り…

(旭堂南龍=講談師)

(トラベルニュースat 2023年12月10日号)

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