日本経済と観光 持続可能な旅行収支の黒字化に
2024年度の旅行収支が約6・7兆円と過去最大の黒字を記録しました。観光立国として喜ばしいニュースである一方で、日本経済における観光の位置付けが一層問われる時代に突入したことを意味しています。
特に注目すべきは、旅行収支が特許使用料を上回ったという事実です。つまり、これまでの「モノや知的財産の輸出」で稼ぐ従来型の産業構造から「ヒトの移動による消費」が日本経済に強く影響してきた証拠でもあり、訪日外国人旅行者の消費行動が地域経済にも大きく貢献できることを明らかにしたと言えます。
しかし、これをもって「観光で日本は潤う」と単純に喜ぶわけにはいきません。なぜならば、これは円安という一過性の環境に大きく支えられていることや、日本人の海外旅行支出の伸び悩み、つまり「出費が増えていないから相対的に黒字化している」側面もあり、本質的には脆弱な構造が残ったままだからです。為替が円高に転じれば、旅行収支の黒字は簡単に縮小してしまいます。今後、日本の経済成長の柱として真剣に観光政策を推進するのならば、観光立国のあり方を根本的に捉え直し、次のステップへ移ることが必要だと考えます。
最大の課題は、旅行収支を「量」ではなく「質」で支えることです。一人あたりの消費単価を引き上げ、長期滞在や地方分散を促すことがこれまで以上に重要なポイントになります。また、観光による外貨獲得とともに域内経済循環を向上させ、収益から地域全体のマネジメントとマーケティングコストの財源を確保し、環境インフラや人材育成等に再投資することで、真の意味の「持続可能な観光地域経営」へと進化させることが必要です。
そのためには…
(山田桂一郎=まちづくり観光研究所主席研究員)
(トラベルニュースat 2025年5月25日号)
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