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講釈師が語る荒川十太夫最終回 武庸の忠義が他の者の徳になる

荒川十太夫は緩やかに首を差し出しますと松平隠岐守が刀で以って勢いよく振り下す、血煙上げ荒川十太夫は「ドサリ」と倒れ辺り一面唐紅となるかと思いきや、一寸手前で刃を止め、微笑みながら鞘へと納めます。

「先程の一刀で嘘偽りを申した不忠者を成敗いたした。今目の前におるのは忠義なる荒川十太夫のみ。よくぞ本心を明かしてくれた。実は此度の一件、予にはどうも、腑に落ちぬことがあった。そこで本来ならば、杉田五左衛門が取調べいたすところであるが、予が直々に問い正そうと、敢えて手厳しく問い詰めたのじゃ、許せよ。改めて荒川十太夫。褒め遣わすぞ。よくぞ浅野家を讃えながら、当家の名を重んじ武士道を貫いたるは誠天晴れ。さりながら罪は罪、家中の掟を破りし其の方、先ずは百カ日の謹慎を申しつける、が、日々の暮らしもあろう。其の間は日毎、金子の手当をいたすから安堵いたせ。また女房に離縁状を遣わしたと聞く、それを早々に反故にいたしてこれまでのことを詫び、女房を労ろうてやれ、さらにお主の忠義を愛で謹慎が解けた暁には正式に物頭役として取り立てる。其の沙汰を心して待つが良い。余は良き家来に恵まれ仕合わせじゃ。一同の者」「はぁはぁ」「罪を憎んで人を憎まず。これにて一件落着」

踵を返してツツツー、お立ちになった後ろ姿を伏し拝んで十太夫が涙に咽ぶばかり。すぐさま女房の元へ帰りましてこれまでのことを物語れば喜んだ。

「貴方様、誠におめでとうございます。それに謹慎の間も日毎のお手当があろうとは、夢のようで御座います」。休みながらも給料が出る、此れが有給休暇の始まりだと言われております…

(旭堂南龍=講談師)

(トラベルニュースat 2024年4月10日号)

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