万博で紡ぐ「輪島塗」 北前船交流拡大機構・地域連携研究所、伝統工芸品の魅力発信
一般社団法人北前船交流拡大機構・地域連携研究所は5月29日、大阪・関西万博会場内のポップアップステージで日本の伝統工芸品の魅力を伝えるイベントを開催した。読売新聞主催の「饗宴!匠が演じる日本美の世界」に呼応したもので、北前船にゆかりのある石川県輪島市、新潟県佐渡市、福井市の3市が観光や物産のPRを行った。
両者では、2022年にパリで日本の食や文化を発信するイベントを行い大きな反響を得て以降、24年4月にはイタリア・ミラノでも地方の伝統工芸品の展示を実施。今年3月には羽田空港でも同趣旨のイベントを開催し、地方の伝統工芸品や食、文化を大阪・関西万博から海外へ発信する機会として今回万博会場での開催にこぎ着けた。
3団体のうち輪島市は、市を代表する伝統工芸品「輪島塗」について、震災から現在までの状況を説明したほか、江戸時代から塗師屋として続いてきた田谷漆器店代表の田谷昂大さんが輪島塗をベースにしたまちの未来について語った。

輪島塗の今を伝える
東京ドームとほぼ同じ面積の朝市の会場が焼失するなど、甚大な被害を受けた輪島市。震災前には400もの輪島塗の工房があったが、大半が被害を受け昨年には仮設の作業場を国・市の支援で建ち、復旧に向けて職人が奮闘している。ちなみに万博会場には、2017年から5年かけて制作した輪島塗大型地球儀「夜の地球 Earth at Night」が展示されている。
田谷さんの実家も倒壊し、祖母が奇跡的に救出されるなど家族に被害はなかった漆器店は大きなダメージを受けた。「祖母が1月2日に救出され、その日の夕方に輪島の企業で最初に『復活する』とSNSで発信しました。会社の誰一人も悲しい、つらいと言わない。自分たちの仕事をまっすぐやることが能登半島の復興になる」。社員と懸命に再建に取り組んだが、当初の田谷さんは自力再建にこだわり義援金受け取らなかったという。そんな時、以前から付き合いのあった福岡の寿司屋の大将から驚くほどの金額が振り込まれた。お礼の連絡をすると大将は「仕入先を守れないんだったら、寿司屋の暖簾をおろす」と言われたそうだ。
その後、田谷さんはクラウドファンディングを始め「未来の輪島塗を買いませんか」と呼びかけ、1億5千万円が集まった。地震でひびが入ったり一部損壊した在庫の輪島塗の食器を金継ぎの技術で再生し売り出した。24年一番売れたシリーズになったという。
田谷さんは「伝統工芸はイノベーションの連続で今まで続いてきました。輪島塗の普遍的な価値を変えることなく消費者に届けること」。それが自らの役割だと自覚し、漆の塗装技術を売る事業に進出。中国の茶器、欧州の万年筆に漆を塗る、卓球のTリーグの優勝盾に漆を施す…。パッケージも刷新し、ホームページも一冊の本を読むような作りに変えた。次は「輪島にたくさん人が来る未来を創っていきたい」と話していた。
会場には各地の工芸品は展示され、終日にぎわっていた。
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