接して肉声を聞く、仕事
「さらばモスクワ愚連隊」「青春の門」「大河の一滴」などの著作で知られる作家、五木寛之さんがこのほど出版した「こころの相続」(SBクリエイティブ)で、コロナ禍の日本社会が学ぶ教えとして“目に見えない財産の継承”を訴えている。
コロナ禍でこれまで当たり前のように人と人が会い、行ってきた打ち合わせや会議ができなくなった。その結果、インターネットを使ったリモート化が進んだが、それを人間同士の新たな交流の場の誕生と捉えるのはどうかと警鐘を鳴らす。
仏教の言葉で重要な教えを師から弟子に直接伝授することを面受(めんじゅ)と言うそうだ。五木さんは「面受とは、面と向かって話を聞くことがたくさんのことを学んだ、ということにはならず、接して肉声を聞くこと自体が大事だ」と説き、接したことが個人の記憶の集積となり歴史になるので、人と接することをないがしろにできないと説く。
翻って旅行会社をはじめ旅館ホテル、ドライブイン、観光施設など観光業。その生業はいずれも「接して肉声を聞く」なかにこそ、感動や感激があり、人が生きていくための糧を有している重要な仕事だと言える。コロナ禍はまだ続くが、人を元気にする「こころの相続」の一助になる仕事をしているとの自負をもって臨みたい。
(トラベルニュースat 20年9月10日号)
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