滋賀・信楽に和のオーベルジュ　欅の宿 縁

たぬきの焼き物で知られている信楽焼の産地、滋賀県甲賀市信楽町。大阪から車で約１時間と適度なドライブが楽しめる都市近郊リゾートである。その地に“和のオーベルジュ”「欅の宿　縁」がある。今年８月１日開業した１日１組限定の１棟貸し切りの宿だ。

もともと個人の居宅だった邸宅を宿にしたのだが、この邸宅がすごい。高級建材の総けやき造りで、しかも宮大工の手による建築で釘を１本も使用していないという。日本建築の伝統の技術の粋を集めた貴重な建築物でもある。総工費は約数億円といい、こだわりと贅を尽くした内容なのだ。

瓦葺きの数寄屋門をくぐり、石の階段を昇っていくと玄関がある。まるで旅館か料亭かと思わせるような広く重厚な造りで、開くと正面に中庭が見え、信楽焼のアート作品が目に入る。磨き抜かれた床、端正に編みこまれた網代天井。こんなに大きな網代天井は珍しいらしい。ロビー右手にリビング、ダイニング、キッチン（厨房）がある「囲炉裏の間」、左手に和室が３室、ツインベッドルームの主寝室。そしてウォークインクローゼットを改装した半露天風呂の浴室、蔵をフィンランド式サウナに改装した「蔵サウナ」を設けている。

浴室は既存の岩風呂と併せて２カ所備える。

建築されてどれほどの時間が過ぎているのかわからないが、太い梁や柱の木組み、床、多彩な天井など、日本建築が誇る経年の美しさが増し、枯山水の日本庭園と見事に融合。趣のある宿に醸成されている。

そして、宿のもう一つの特徴である“和のオーベルジュ”。１日１組限定で、ミシュランの星を獲得した日本料理の生田一雄氏が腕を振るう。生田料理長は、京都ブライトンホテルの和食レストラン、次いで京都・岡崎で「京都・岡崎　いく田」の店主として多くのグルメファンを魅了してきた。

同宿は、京都市で不動産関係や宿泊事業など多角的に展開する沖潮開発（京都市）の子会社、サーガが、宿近くのローズゴルフクラブ、グランピング施設などと併せて運営している。

今年２月、沖潮開発の社長の知人から個人の邸宅を購入しないかという話があり、一目見て気に入り購入。４月から一部施設を改装。その間、店をやめ、信楽に暮らす生田料理長と出会い、“和のオーベルジュ”となったわけである…

（井村日登美＝ホテルジャーナリスト）

（トラベルニュースat 2022年11月25日号）