人材と経済の循環を作る
昨年発表された岸田政権の「新しい資本主義」の評判が高まらないようです。少子化と格差を生んだ新自由主義と決別し、新しい官民連携のもとにデジタル化と地方創生を勧めようというもので、評価されてもよい気もします。言葉だけでぴんとこないからだと思いますがひと言で言えば「人口減少時代の資本主義」なのだと思います。
少子化と格差を生んだのは、無理やり経済成長を目指そうとして金融工学に走ったからですが、所得ではなく資本増殖でしか実は経済が成長していなかったことはピケティが実証しました。観光産業もインカムゲイン(継続益)ではなくキャピタルゲイン(売却益)目的でしか投資されなくなり、観光地の一極集中が顕著となり、地方創生とは真逆を進んできました。そして、地方の労働生産性を上げないと地方から都市への流出が進むので、労働生産性を上げなさいという方向性になりました。
それに待ったをかけているのが、新しい資本主義です。例えば、中小宿泊業の労働生産性のピークはいつかご存じですか。30年前の1993年です。それまでは人口増加をベースに事業モデルが成り立っていましたが、生産人口の減少が始まり、人は都市に流出していきました。以後、地方の人は減り、町は縮小するばかり。地方の労働生産性は上げるものではなく、政策の結果、相対的に下がってしまったのです。
そう考えると、新しい資本主義は一つの指針となります。それは労働生産性から社会的インパクトへの目標の転換です。地方の中小宿泊業は不動産バブルにわいた50年を忘れ、原点に戻ればよいだけです。
観光の目標は、様々な手法で都市と地方の間に、人材と経済の循環を作ること。そして、地方が生産するエネルギーや食料と水、Co2を吸収する森や海を守り…
(井門隆夫=國學院大學観光まちづくり学部教授)
(トラベルニュースat 2023年1月25日号)
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