講釈師が語る黒雲の辰その八 善人に生まれ変わる“夢の浮橋
「今から十年前、黒雲の辰という命の恩人の無事を願うんや言うて、毎日のように経文唱えてますねん、初めのうちは頼りなかったんですが、今では立派にお経あげてますわ。会いたい?そうでっか、ちょっと待っとくんなはれや、あ、丁度お勤めの最中でございます。おい、信兵衛、お客さんや、開けるで」「或遭王難苦、臨刑欲寿終、念彼観音力、刀尋段々壊、惑囚禁枷鎖、手足被杻械、念彼観音力、釈然得解脱、或遭王難苦、臨刑欲寿終、念彼観音力…何やねんな」「あんたに会いたいと言うて、お客さんやで、さぁ入りなはれ」
「ありがとうございます。お爺さん、お懐かしゅう御座います。辰でございます」「あ!そうや、忘れもしまへん、お辰さん、黒雲のお辰さんや、おい嬶!あれ?どこに行ったんや?奥の部屋か?おい嬶、開けるで」「或遭王難苦、臨刑欲寿終、念彼観音力、刀尋段々壊」「ワシより激しいやないか、おい嬶!」「何じゃいな、お勤めの最中に邪魔したらいかんやないか」「そんな事よりも、常から言うて聞かせてたやろう、わざわざ尋ねて来てくれたんや、泥棒のお辰さんや、(ワシの)命の恩人で泥棒の中の大泥棒、黒雲のお辰、女白浪!」「もう今では賊ではございませんので」「何じゃい、うちの亭主は失礼な、泥棒泥棒と呼び捨てで言う人がありますかいな。命の恩人やろう、御泥棒様と言わんかいな」「それでは同じ事でございます」
「よう来とくんなはった、ゆっくりしとくんなはれ。ほんまにあの節はありがとうございます」「そんなに礼を仰っては困ります。どうぞ私の申す事も一通りお聞きなされて下さりませ。…
(旭堂南龍=講談師)
(トラベルニュースat 2026年3月10日号)
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