脱・成長時代の旅行は「疎開」
イヴァン・イリイチという20世紀後半を生きた思想家がいます。社会における様々な制度を批判し、聖職者でありながらバチカンから追放された経歴の持ち主でもありますが、今イリイチのオルタナティブ(代替的)な思想が見直されています。その思想は、観光にも当てはまり、まさに未来に向けた予言だったようにも思えます。
イリイチは時代とともに脱産業化が進み、「ヴァナキュラーな領域」へとシフトすると予想しました。それは官僚制や標準化された学校教育や医療・介護といった作られた制度に依存した社会ではなく個人が「自立し自給しながら小さなコミュニティで暮らす社会」へのシフトと言い換えられます。
とはいえ、現在、都会へ人口は集中し、どの産業も人手不足が続いています。とても自給社会へとシフトするとは思えないかもしれません。ただし、それは現在の話。経済産業省が公表した「2040年の就業構造推計(改訂版)」によると、2040年に首都圏では、事務職を中心に200万人(約5%)が人員余剰になる一方で、地方では不足すると予測されています。これは、AIが普及し生産性が向上した結果だと想像できます。
こうした時代に社会や観光業はどう変わるでしょうか。私は、満足を最大化する時代から、不安を最小化する時代へと変化すると考えています。例えば、対面サービスはリスクととらえられ、多くのサービスが機械化されていきます。また、結婚制度に基づいた婚姻数は減り、ひとりで自由に生きる人々が増え、学校はいじめのないオンライン化された私立に通う、制度に縛られない生活文化が根づいていきます。
これまでの観光(レジャー)需要は減り、新しい観光(疎開)が増えていくでしょう。疎開先へは定期的に通い…
(井門隆夫=國學院大學観光まちづくり学部教授)
(トラベルニュースat 2026年2月25日号)
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